えびでんすべーすど

計量経済学の実証研究を紹介します。その他もろもろの備忘録にも使います。

テレビの力、無限大 ①

こんにちわ。

春休み中に記事を書きまくろうという魂胆で、早速二つ目の実証研究の紹介をしたいと思います。

 

今回の論文は長いので、今日は概要を説明するだけにします。

しかし、なぜこのテーマが大事なのか、という実証研究にとって欠かせない要素も扱いますので、是非とも読んでみてください。

 

論文の概要

さて、まずは下のグラフをご覧ください。

f:id:econmet:20160115130220p:plain

上のグラフは1960年から2013年間の、アメリカ、日本、ブラジルにおける合計特殊出生率の推移を私がグラフにしたものです。*1

 

どの色がどの国か当てることができますか?

センター試験の地理みたいな問題ですね*2。少し考えてみてください。

 

わかりましたか?

 

正解は、

青:ブラジル

赤:日本

緑:アメリカ

です。

 

では次に、同じ3国の一人当たりGNIの推移を同じタイムスパンでグラフにしてみましょう。

以下のようになります。

f:id:econmet:20160115131711p:plain

 

みなさんにお伝えしたいことは、

「ブラジルの出生率低すぎね?」

ということです。

 

一般に、国単位の出生率というものはその国の豊かさと負の相関を持つと言われています。

つまり、豊かであるほど、出生率は下がる傾向がある。ということです。

要因としては、先進国であるほど女性の社会進出が進んでおり、それによって晩婚化が顕著になってきたことや、先進国では子供を幼い頃から労働力とするような労働集約的な産業がメジャーでなくなっていること、またそれにともない教育への投資がおおきな価値を生むようになっていること、などが挙げられます。

 

実際に、2013年度の一人あたりGNI(対数)と出生率のデータを散布図に示すと以下のようになります。

f:id:econmet:20160115134204p:plain

 

ざっくり作ったので、下に張り付いてる奴がいるとかそういうことはここでは気にしないでください。(おい)

また、中に書かれている直線は、近似直線と呼ばれるものです。だいたいこういう直線の上にデータが乗るよっていうことを示すものだと思いましょう。

 

上の散布図から

豊かであるほど出生率が下がる

という関係が一般的に存在することはわかっていただけたと思います。

 

さて、話をブラジルにもどしましょう。

日本やアメリカと比べると一人当たりGNIは格段に低いですね。

ならば、先ほど散布図から導いた一般論から言うと、ブラジルの出生率は日本やアメリカよりも大きくなっているはずです。

しかしどうでしょう。

最初に見ていただいたグラフでは、ブラジルとその他二国の間に出生率の差はほとんど存在せず、なんならアメリカよりも出生率が低い時期すらあったことが見て取れます。

 

これは一体どういうことなのでしょうか?

ブラジル独自の文化によるものなのか、それとも何かしら外的要因が存在するのか…

様々な分野の学者がこの問題を議論し、ブラジルにおける出生率低下の原因を探し求めてきました。

 

こうした議論の中で、社会学の文脈から一つの仮説が浮かび上がってきます。

その仮説とは、ブラジル人が普段見ているドラマの影響で出生率の低下が起こっているというものでした。

 

は?

 

ドラマの影響で子供を産まなくなる?そんなにテレビって影響力持ってんのかよ?

って思いますよね。

 

その疑問は至極当然です。日本のテレビはつまんないですからね

しかし、もしこの仮説が正しいとするなら、それはとても大きな政策的含意を持っています。

 

例えばあなたが政府に勤めていて、国民の健康状態を改善することが使命だとしましょう。

あなたの国では、現在エイズが蔓延しており、どうにかしてこの拡大を食い止めなくてはなりません。

あなたの国では、エイズの主な感染拡大経路が感染者との性交渉であることが判明しているとしましょう。

エイズは感染者の母乳や精液などの体液が、粘膜部分や傷口に触れることで感染するものです。なので、エイズの感染拡大防止には、国民の避妊具使用率を上げることが効果的であると考えられます。

そう考えたあなたは避妊具の使用率アップのためのキャンペーンを行うことにしました。

さて、あなたはどういった手段で国民にメッセージを発すれば良いのでしょう?

 

国の予算は無限ではありません。ここは、できるだけ効率よくメッセージを発していきたいところです。

そのためには何が国民にとってもっとも影響力のあるメディアなのかを明らかにする必要があります。

ここで、あなたは学生時代に読んだ論文で、テレビドラマの影響でブラジルの出生率が低下していたことを示したものがあったことを思い出すのです。

 

出生率を変化させるほどに影響力のあるテレビドラマという手段を使えば、効果的に避妊具の使用率を向上させることができる!

そう考えたあなたは脚本家に依頼して、避妊具が大活躍するドラマ(笑)を書いてもらいました。

効果はてきめん。国民は避妊具の大事さを理解し、結果としてエイズの感染拡大を食い止めることに成功しました。

めでたしめでたし

 

まぁ避妊具が活躍するドラマ、というのは冗談ですが、

国民にとってもっとも影響力のあるメディアの特定というのは、以上述べた通り国の政策運営のあり方を決定する非常に大きな要素なのです。

 

ということで、先の仮説をどうにかして検証する必要が出てきました。

必要があれば誰かが動くものです。実際に実証分析が行われ、2008年に

Soap Operas and Fertility : Evidence from Brazil

という論文にまとめられました。

 

今回紹介するのはこの論文です。

この論文は、5000通の履歴書論文とは違い、純粋な観察データを用いた本格的な実証研究です。*3非常に読み応えがあるので、ゆっくりと読んでいきましょう。

 

 

終わりに

冒頭に述べたように、今回は概要の説明で終わりにしたいと思います。

次回は論文の解説に入る前に、論文で使われている手法の解説をしたいと思います。

つまんないかもしれませんが、知らなきゃよめないので、ぜひとも御覧ください。

*1:出典:

http://data.worldbank.org/country/united-states

*2:あれ意外とむずいですよね

*3:履歴書論文が本格的じゃないとは言っていないです。